文鳥と暮らすための本

1章 ヒナとの生活

7、ひとり餌まで

・まき餌にトレーニング効果なし

給餌回数は減らさない

・親鳥(飼い主)は教師役

 

文鳥ヒナの「歯固め」
孵化28日目「歯固め」紋次郎

ヒナが自分でエサを食べられるようになることを、飼育用語では、ひとり餌(独り餌、ひとりえ・ひとりえさ)と呼びます。平均的には、翼を広げて飛べるようになってから約1週間後、孵化35〜45日目にひとり餌となります

ところが、一羽飼育の場合、ひとり餌が遅れることがあります。そのため、自立を促すべく、給餌を受けている段階からまき餌(撒き餌、まきえ)をしたり、ヒナの成長に合わせ、給餌の回数を徐々に減らすなど、段階的な「トレーニング」が必要とする考え方があり、このような「トレーニング」は、長らく、文鳥飼育の「有識者」とされるようなベテラン飼い主たちの一部が実践し初心者にも勧められてきました。したがって、その効果は根強く信じられていますが、無意味で不自然なのでやめるべきです。

 

まず、まき餌ですが、例えばフゴの中に、アワ玉を撒いても、敷材に埋もれるだけですし、キッチンペーパーなどを敷材にしていれば、表面をザラザラにして居心地を悪くしてしまいます。それでも、興味を持ってかじってくれるなら、クチバシでものを噛む練習(「歯固め」)にはなりそうですが、それはエサとして認識しての行為ではないので、捕食の練習とは言えません。「歯固め」としては、より噛みやすいより大きな他の物の方が、よほど効率的なので、そちらを利用したほうが良いでしょう。例えば牧草・稲わら・い草・つまようじ(先端は折った方が安全)といったものです。そもそも、給餌時間以外は、暗いところで安静にさせているはずのなので、暗がりの中を、小さなエサ粒を見つけてついばめるわけがありません。つまり、給餌を受け、暗室で安静にしている段階でのまき餌は無意味なのです。飛べるようになる前に食べものや、食べ方を覚えても、食べ物のある場所まで飛んで行けません。本来の摂食トレーニングは、巣立ち後に親鳥の行動を真似することによって始まります。
 飛べるようになってから、つまり、摂食を学習すべき成長段階に達してから、飼い主が意識的に施す「トレーニング」としては、まき餌も無意味とは言えません。しかし、それだけでは逆効果になりかねないので、注意が必要です。実際のところ、その頃のヒナは、まだ不器用なので、床の粒エサを拾って食べるのが難しく、むしろ、エサ箱にある状態や、粟穂のような固定された状態の方が食べやすいのです。したがって、その「トレーニング」として、まき餌だけの状態にしていれば、わざわざ摂食の難易度を上げていることになってしまいます。

 

混同しやすい用語
巣立ち= 飛べるようになること。自然界では、巣から飛び立つこと。


ひとり餌=自分でエサを食べられるようにな り、給餌を必要としなくなること。自然界では、親元から離れて自立すること。
 

 

孵化34日目
殻はむけるが食べられない孵化34日目

次に給餌回数ですが、成長に伴って、決めた時間割を変える必要はありません。なぜなら、1羽飼育で給餌回数を減らした場合、かえって自立を遅らせる結果となることも多いからです。

文鳥のヒナは、孵化1ヶ月ほど経てば飛べるようになります。この、飛ぶ、は、自然界では、巣から飛び去る巣立ちを意味します。しかし、文鳥のような小鳥の多くは、巣立ちと同時に親鳥の元から離れるわけではありません。巣から飛び出した後も、しばらくの間、親鳥の後ろをついてまわり、親鳥の行動を見ながら、食べ物の種類や探し方や食べ方などを学ぶ必要があるのです。

このいわば学習期に、親鳥たちは何羽ものヒナたちに付きまとわれながら(文鳥の場合、通常5羽ほど孵化します)、ヒナたちが自分で食べられるようになるまで、給餌しなければなりません。一方のヒナたちは、飛び回ることで、巣の中でじっとしている時よりも、早くお腹が空くようになり、これまで以上に親鳥の給餌を求めるようになります。その結果として、親鳥たちは、底なし胃袋のヒナたちに追い回され、持て余すようになり、一方でヒナたちは、親鳥が空腹を十分に満たしてくれないので、自分自身でエサを食べられるように努力するようになります。
 このように、ヒナと親鳥、双方の都合により、学習期間を通じて徐々に、ヒナは給餌を受ける必要がなくなって、自立(ひとり餌)状態になっていくのが自然です。つまり、本来、巣立ち後の方が、親鳥が巣にやって来るのを静かに待ち、体力の消費が少ない巣立ち以前よりも、給餌間隔をせばめ回数を増やすのが当たり前なのです。ところが、まったく逆に回数を減らしてしまうのですから、それはとても不自然な行動となるのです。もちろん、約1万種類存在するとされる鳥類の中には、孵化直後からエサをついばみ始める種類(ニワトリなど)や、成長したヒナを巣に置き去りにし、空腹によって捕食の本能を刺激させる種類(海鳥類)もあります。しかし、文鳥のヒナは目も見えない無力な状態で生まれ、巣立ち後は、身軽に飛ぶために、余計な脂肪を体に蓄えることができず、1日食べないだけでも生命の危険があるほどです。「鳥」と言ってもその生態はさまざまなので、混同してはいけません。文鳥の場合は、軽快に飛び回れるようになって、しばらくは親鳥のサポートが必要な学習期が不可欠です。

空腹になれば、自分で食べる努力をする、当たり前のようですが、それが出来るようになるのは、捕食行動を親鳥から学んで後のことです。では、その親鳥の役目を、1羽飼育の手のり文鳥のヒナでは、誰が果たすのでしょうか?「有識者」を自認するような人たちの多くは、自宅で繁殖を行い、育雛も兄弟姉妹数羽を一緒なので、ヒナたちが、お互いの行動に学びながら自立を促し合う姿しか知らないのかもしれません。確かに、複数のヒナが一緒に育つなら、給餌回数を減らして空腹になっても、1羽が粒エサをつつき、その真似をした1羽がかじり、さらにその真似をした1羽が飲み込み・・・、競い合い助け合い学び合いながら、捕食の仕方を学んでくれるので、飼い主が特に何もしなくても、ひとり餌になってくれます。

ところが、1羽飼育のヒナには、教えてくれる親鳥も学び合う兄弟姉妹もいません。飼い主だけしかいないのです。ヒナにして見れば、エサをくれるのは飼い主だけ、食べ方を教えてくれるのも飼い主だけです。そのような飼育環境で、飼い主が何も教えないまま給餌の回数を減らせば、ヒナは何が食べ物でどのように食べたらよいかわからず、自分で空腹を満たす努力のしようがないので、なるべく動かずに体力の消費を抑えて、親である飼い主が給餌にやって来るのをじっと待つことになります。つまり、好奇心のまま良く動き、親鳥の真似をして生きる手段を学ぶべき時期に、何もせず静かに時を過ごすだけになり、結果、ひとり餌への移行は大幅に遅れてしまいます。

1羽飼育のヒナにとって、飼い主は親鳥と同じです。飼い主は、親鳥に代わって、学習期のヒナの教師役を務めねばなりません。給餌回数を減らして空腹に追いやって、ばら撒いたエサを本能に従って拾って食え、では、自立へのトレーニングにはならず、結果的に、育雛放棄に等しい無責任なことにもなってしまいます。しっかりと自分の親としての役割を理解して、ヒナの学習期を親鳥の気持ちで一緒に過ごし、ひとり餌に導いてください。

3羽姉妹の場合
初飛行(巣立ち)孵化27日目 / ひとりエサ孵化孵化37日目
まだじゃれあうだけの25日目  引っ張り合って勝手に遊ぶ26日目 ノビィ〜!とやる気まんまん28日目 仲良く湯漬エサを食べる孵化35日目

 

ひとりっ子(一羽っ子)の場合
初飛行(巣立ち)孵化26日目 / ひとりエサ孵化孵化43日目
 
すでに飛ぶ気配の孵化23日目 ノビィ〜!とやる気まんまん25日目 飼い主に誘われる孵化27日目 指と一緒に水を飲む孵化31日目

 

文鳥ヒナの成長段階のめやす

  孵化20日目頃〜 「歯固め」をするようになる。

  孵化24日目頃〜 羽ばたき行動が盛んになる。

  孵化27日目頃  飛行=巣立ち

     学習期(自立に向けた準備期間)・・・捕食を覚え飛行技術を磨く。

  孵化35〜45日目 ひとり餌=自立

 

 

 

 
ひとり餌へ向けて【その1】〜環境を用意する〜

「巣立ち」後のカゴ生活
大きな水入れは設置しない
 自分で試せる環境にすることで、ヒナの探究心を引き出しましょう。
 
飛べるようになって数日したら、就寝時間以外は、成鳥飼育用のケージで生活させます。エサも水も設置し、休憩用にツボ巣、遊具のブランコなども、初めから設置してかまいません。むしって遊んだり食べたりできる粟穂(穂についた状態のアワ)などもお勧めです。

・・・まだ食べられませんから、特に青菜は無駄になってしまうことも多いですが、
食べず嫌いにならないように、見慣れさせ、自然と自分で興味を持つのを待つためのものとして、割り切りましょう。

 
ひとり餌へ向けて【その2】〜食べ物を教える〜

 人間の場合、食べ物を遊び道具にする幼児は、親に叱られて当然ですが、親鳥代わりに飼い主は、
ヒナの前で文鳥の食べ物を遊び道具にしなければなりません。湯漬けエサを給餌器にトントン詰める様子を飛べるようになったヒナに見せ、湯漬けエサを数粒指先につけたり、指先でつついて、ヒナの関心を誘います。青菜や粟穂なども、ヒナの前で、飼い主がつついたり、むしったりすると良いでしょう。

 ・・・実際に食べて見せる必要はありませんが、
飼い主が親鳥として模範を示すことをしないと、ヒナは学ぶことができません。興味を持たせるように、少し意識的に頑張ってみましょう。
  


 

次のページ

 

Copyright(C)bunchoya